過去1年間に、サプライチェーンやESGの問題への影響について、多くのシニアビジネスおよびサステナビリティのリーダーと話す機会がありました。これらの会話から、サプライチェーンが企業の持続可能性への取り組みにおいて、最も影響力のある分野の1つと見なされるようになってきていることが分かりました。
この傾向は、6月に開催された国連グローバルコンパクト2021年リーダーズサミットで公開された調査結果にも反映されており、世界中の企業の50%が、新型コロナウイルスのパンデミック以降、サプライチェーンの持続可能性が重要性を増していると答えています。(*1)
世界で最も有名なファッションブランドが抱える劣悪な労働条件や、世界最大のオンライン小売業者に対し、売れ残った商品の廃棄停止をグリーンピースが訴えるなど、注目度の高いインシデントが続き、世間の注目度が高まっていると考慮すれば、これは驚くことではありません。また消費者、投資家、株主からのプレッシャーと同様に、規制のプレッシャーも高まっています。
規制要件において、拡大生産者責任( EPR )政策といったイニシアチブは特に重要になるため、長年にわたりESGを議題に上げるための媒体となってきました。中でもドイツで導入されたサプライチェーン法(Germany’s supply chain act)は、マイルストーンとして注目スべきです。この法律に基づき、一定規模を超えるドイツの企業は、グローバルサプライチェーンにおいて人権侵害および環境侵害を防止するデューデリジェンスの手続きを確立させる必要があります。また規則に違反した場合、大企業はグローバルの年間売上高の最大2%にあたる罰金の支払いを義務付けられ、また公開入札からも除外されます。
複数のステークホルダーから透明性へのさらなる要求が見込まれる中、持続可能なサプライチェーンの実践による深い促進も期待されています。英国の競争・市場庁( CMA )はグリーンマーケティングが消費者に与える影響を調査中であると発表し、また米国で2,000人の米国の消費者を対象として実施された調査では、31パーセントが持続不可能なアパレルに対する企業の「ファスト・ファッション税(fast-fashion tax)」を支持している事が明らかになりました。
サプライチェーンが抱える問題へ関心が集中する中、リーダーは、自社が上位レイヤーから下位レイヤーのサプライヤーまで横断して、サプライチェーンがどのように管理されているのか、を熟知したいと考えています。この新しいビジネス変化を進むため、次の4つの重要な戦略を検討してみましょう。
透明性に焦点を当てる。
現代のサプライチェーンは複雑に入り組んでおり、それは流通する情報に数多くの知識的なギャップが存在することを意味します。多くの企業にとって、パンデミックは、サプライチェーンの完全な可視性の欠如と不適切な慣行を明らかにしました。 サプライチェーンの適切な監視と管理を確実なものにするためには、第1、第2、第3といったサプライヤー間における運用上の弱点を特定することが重要です。
スピードとスケールを持ってデジタル化を実現する。
今こそ大胆に、新しいデジタルテクノロジーを採用し、サプライチェーンの大規模なデジタル化を実施する時です。atma.ioは、日常で活用する個品に対して固有のデジタルIDを割り当てることで、登録された製品の本来の価値を解き明かし、各個品に関連する全てのイベントを追跡、保存、管理できます。つまり、エンドツーエンドの透明性を実現する新しいクラウドプラットフォームです。こうしたデジタルIDテクノロジーを使用すれば、顧客体験の改善、運用コストの削減、在庫精度の向上による廃棄物の劇的な削減、また組織間の摩擦を最小限に抑え、商品を認証し、さらに循環性を実現できるようになります。これは八方良しと言えるでしょう。これらのテクノロジーは、近代的で耐久性があり、かつ持続可能なサプライチェーンを実現する上で、ますます重要な役割を果たすことが期待されています。
ビジネス価値のための投資。
価値を発揮するため、デジタルトランスフォーメーションは明確な財務および運用パフォーマンス指標を備えた企業のデジタル戦略に組み込まれている必要があります。実際のビジネスニーズと持続可能性における戦略とが整合してこそ、組織全体での実現が確実になります。サプライチェーンをデジタル化するビジネスケースには説得力があり、それは調査でも明らかになっています。Cognizantによる最近の調査では、77%の回答者が「環境センサーとIoTは持続可能性の目標を達成するために重要、または非常に重要である」としています。”RFIDテクノロジーは、在庫精度を最大99 %まで高め、また毎日の業務スピードを向上させ、在庫不足や廃棄といった問題も軽減させます。アパレル業界だけでも、RFIDは在庫を2〜13%削減し、同時に1.5〜5.5 % (*2)の売上増加に寄与していることが証明されています。またサプライチェーンの透明性という課題に取り組まないリスクも明確です。投資家、企業、都市、自治体、地域向けのグローバル開示システムを運営する非営利慈善団体 CDPは、今後5年間に企業はサプライチェーンの環境リスクから最大1200億米ドルのコストに直面すると報告しています。
サプライチェーンにおける脱炭素を理解する。
気候変動の抑制における緊急性に応えるため、企業が温室効果ガス( GHG )の排除に向けて行動することが重要です。サプライチェーンは、脱炭素化とネットゼロの誓約を実現する上で素晴らしい機会です。また排出量を大幅に削減するためのテクノロジーはすぐ利用することができます。Avery Dennisonは、世界的なスポーツウェアブランドを含む多くのブランドや小売業者と協力し、個品レベルで数十億の製品をトラッキングし、また個々のライフサイクル全体を通した排出量の可視化を実現しています。物流や輸送、または全温室効果ガス排出量の26 %を占める食品サプライチェーンなどの産業を考えた場合、可能性は大きく、脱炭素化におけるサプライチェーンの役割は、今後絶対的なゲームチェンジャーとなる可能性があると考えています。
私は、規制、商業、および消費者の圧力が強まるにつれて、今後数ヶ月で勢いが増すことを確信し、また期待しています。シェルは最近、2030年までにサプライチェーンの排出量を45%削減する必要があると発表しました。機運は既に高まっています。先見の明があるリーダーは、もはやデジタル化を始めるだけでは不十分であることを知っています。ビジネスと地球を繁栄させるためには、サプライチェーンのシステム全体の変革が必要なのです。