Touchless Retail Experiences – The New Normal

ユニクロとAvery DennisonがRFIDを使ってイノベーションを起こす

この記事は「The Robin Report」の承諾を得て、翻訳・掲載をしています。

Sarah Holbrook|2023年1月24日

NRF Big Show 2023の会場では、多くの企業がコンピュータビジョンや「Just-Walk-Out (ジャストウォークアウト)」といったテクノロジーを展示していました。中でもAIは、小売業の最新テクノロジーのトレンドとしてこの展示会での話題の中心でした。よく理解されていないどころか誤解されているにもかかわらず、です。ChatGPTの盛り上がりを見れば、この業界がいかに最新トレンドに敏感であるか、ということがわかるでしょう。

しかし、流行に関心を示すことと、実際にそれを実装するということはまったくの別物です。店舗に新たにAIとカメラを使ったシステムを導入することになった場合、すぐにその難しさに気付くはずです。Amazonが他の小売企業にも外販しているAmazon Goやジャストウォークアウトに必要な技術は、新しい店舗や小型店には向いていますが、既存店や大型店を運営する小売企業にとっては全く現実的ではありません。つまり、このコンピュータビジョンとAIを使った無人店舗のトレンドは、実際の所、多くの小売企業にとって限定的なものになりかねません。

流行りよりも良い選択肢

イノベーションは、未来の小売業の母です。ユニクロとソリューションプロバイダーのAvery Dennisonは、斬新かつゲームチェンジャーとなるセルフレジの導入で連携しました。両社は、NRF Big Show 2023でのパネルディスカッションとThe Robin Reportとの独占インタビューを通して、パートナーシップの詳細を明らかにしました。ファーストリテイリングのCIOである丹原崇宏氏は、Avery DennisonでGlobal RFID Market DevelopmentのVice Presidentを務めるBill Toneyと共に、生産から販売に至るまでのサプライチェーンと製品ライフサイクルの効率化に取り組むユニクロの革新的なアプローチについて話をしました。

NRFでのパネルディスカッションに参加するにあたり、私たちは以前から興味があったセルフレジを体験するためユニクロの店舗を訪れました。買い物の流れは、空いているレジの液晶画面をタッチする、商品(2個でも20個でも構わない)を平らなカウンターに置く、液晶画面で購入を確定する、以上です。支払いの手続きは必要ですが、事実上、一瞬で終わり、ストレスフリーです。

これは嬉しい驚きでした。買い物客を困らせがちなバーコードを使用するタイプのセルフレジとは、似ても似つかぬものだったからです。想像してみてください。カウンターに並べられた商品に指一本触れることなく、瞬時に読み取りが完了し、商品の数がカウントされるのです。このイノベーションは成功だと言えるでしょう。私たちの会計はほんの数秒で終わりました。実に素晴らしいカスタマーエクスペリエンスです。

RFIDがもたらすグローバリゼーション

パネルディスカッションの後、丹原氏とToneyにインタビューし、一連のイノベーションと、ユニクロが取り組んでいる技術的な取組みについて話を聞きました。現在ユニクロは、「グローバルワン」と呼ぶビジネスモデルを世界中に展開しています。そうした企業文化の変革の一環として、ニューヨークにもヘッドクオーターを開設しました。若い世代のみなさん、チャンスです。ユニクロはエンジニアリング、ストラテジー、オペレーションをそれぞれレベルアップさせるため、トップクラスの人材を採用しています。

顧客からの声、店舗からの声

丹原氏は、技術的な事だけではなく、セルフレジを導入した背景やビジョンについても踏み込んで話をしてくれました。「私たちはいつもお客様を第一に考えており、常にお客様に感動していただけるよう模索しています。セルフレジはその一つであり、今後さらに多くのサービスを提供していきます」

シームレスな会計プロセスを実現するために、ユニクロのイノベーションパートナーであるAvery Dennisonは、25年前から実用化されており、信頼性が高いRFIDに着目しました。Toneyは「RFIDは世界中で活用されている共通言語です」と説明し、RFIDには地理的な限界がなく、20年以上前に導入されて以来、絶えず進化を続けてきたことを話してくれました。

「RFIDは、標準規格に基づいているため、企業は製品のライフサイクルを通じて在庫を管理し、また生産現場からレジまでシームレスなプロセスを構築することができます。さらに、単なるB-to-Bの在庫管理ツールというだけにとどまらず、カスタマーエクスペリエンスの向上に繋がる膨大な量のデータを得ることができるようになります」と、続けました。

丹原氏はさらに詳しく説明しました。「私たちは収集したデータを 『ボイス・オブ・カスタマー』 と呼んでいます。こうしたデータはAIを動かし、商品開発や需要予測に反映され、サプライチェーン全体で流通を最適化し、無駄を省くことにつながっています。また、オンラインと店舗の両方で、お客様が 『探したけれど見つからなかった在庫』 のデータも分析しています」 

「店舗から寄せられたデータは 『ボイス・オブ・ストア』 と呼ばれ、オンラインビジネスから得られた分析結果を補っています。また、RFIDを活用して得られたデータを店舗からのフィードバックと組み合わせて商品開発チームに提供し、グローバル展開への指針となるイノベーションを実現しています」

効率と満足度

丹原氏は、同社がテクノロジーを積極的に取り入れることで、スタッフを削減しようとしているのではないことを強調しました。

「デジタル化が進めば進むほど、人の手が必要になってきます。なぜなら、私たちがビジネスをしているのは現実の世界だからです。お客様がいなければ、私たちは存在しません。ヒューマンタッチを充実させるために、デジタル技術を活用しているのです。私たちはデジタル技術を使ってオンラインとオフラインの双方のビジネスを強化しており、それらすべての分野においてエキスパートが必要です」 

Toneyはその話を受けて次のように話しました。「RFIDによって、在庫が見えるようになったことで、店舗で入手できる商品を把握できるようになります。例えば、オンラインで購入した後で、店舗で受け取れるといったオムニチャネルモデルを構築することは、店舗とお客様の双方にメリットがあり、満足度が高いサービスになるでしょう。さらに、RFIDを活用して商品にユニーク番号を与えることで、盗難を減らすことができるようになります。商品がなくなっていることが分かれば、いつ、どのようにして、どこで盗まれたのかをピンポイントで特定し、その要因に対処することができるようになるからです。」余談ですが、詐欺や盗難の防止は、NRFのプレゼンテーション全体を通じての大きなテーマでもありました。

信頼できるパートナー

消費者は、いつでもどこでもシームレスな買い物ができることを期待しているため、小売企業のほとんどがオムニチャネルモデルに移行しました。テクノロジー企業もこれに応え、「欲しいものを、欲しい場所で、欲しいときに」という昔からの小売業の目標に対して、テクノロジーをベースとしたソリューションを一気に広げようとしています。

業界に知見の深い小売企業は、まずは自社が解決すべき消費者のペインポイントを調べることから始めます。だからこそ、自社のビジネスと文化を理解している信頼できるパートナーとプロジェクトを進めることが、賢明なビジネス手法であり、また経済的な利点をもたらします。

その観点から、ユニクロがAvery Dennisonと協業したことは、実用的なソリューションを提供する経験豊富な専門家と協力して、顧客の期待に応えるための先進的な戦略だったと言えます。新しいツールを活用し、既存のシステムに統合することで、各社が勝利を手にすることができるのです。

Amazon Goのような店舗は、コンベンションセンター、空港、スポーツアリーナ、その他「グラブアンドゴー (grab-and-go)」型の店舗には向いています。確かにこのような新しい業態は関心を引くでしょう。しかし、ユニクロの話から学べるように、本当に価値があるブランドパートナーは、顧客にフィットするソリューションを提供する必要があります。そして何よりもこの話の驚くべき点は、多くの人が当たり前だと思っていた技術が、新しい一面を持っていたということだけでなく、あらゆる規模や業態の小売企業にとって、驚くほど現代的で適切なソリューションであることを明らかにしたことです。

Sarah Holbrook(著者)について

Sarah Holbrookは、ヒューストン大学大学院で戦略的フォーサイト(Strategic Foresight)の修士号を取得した未来思考型戦略コンサルタントです。また、FITのグローバルファッションマネージメントの修士課程を修了。未来へのトレンド、革新的なテクノロジー、またこれらのトレンドやテクノロジーが小売業界やファッション業界にもたらす意義について執筆しています。

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